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日本型マイクロファイナンスは庶民の救世主となるか

来るべき「日本型」の「新マイクロファイナンス」のあり方について論じたいと思います。その際に大切になるキーワードは「安定的雇用」です。開発途上国のマイクロファイナンスが、商品を作るための材料を小口で仕入れる小口金融として発達してきたことの絶対的要件として、「小口借入をする人が生産活動に従事し、そのために借入を行う」ということを忘れてはなりません。単なる消費や余暇のために人々は借入を行うのではないのです。一方、米国や欧州のソーシャルレンディングには、「自己投資」のための借入といった要素もあるのでしょうが、そもそも住宅取得や車の購入といった「財」を手に入れるために発達してきたという側面があります。

現在では新たに小さなビジネスを始めるとか、家をよりエコにする(消費電力や二酸化炭素排出を減らすなど)といった目的も加わり、一種の余暇資金もその対象になっているようですが、借り手には正業があり、借入を返すに足るサラリーを得ている、あるいは得ることができる、ということが大前提になっているように思われます。この違いは重要です。マイクロファイナンスは「生産」活動と共に成長し、ソーシャルレンディングは「生活の質」の改善と軌を一にしていると言い換えることも可能でしょう。となると、日本型「マイクロファイナンス」であれ、「ソーシャルレンディング」であれ、提供する枠組みを少し違えて考えるほうがよさそうです。

またマイクロファイナンスの場合には「貧困からの脱却」が最重要テーマであり、ソーシャルレンディングには、なくても困らないが「あれば社会に益をもたらすことができる」というトーンが含まれると感じます。共に「公益」という点では共通していますが、その表現の仕方が少し違うように思います。そこで雇用です。失業者や倒産した中小企業主にとって「雇用」と「事業」の復活は悲願でしょう。こうした人々の自活を助ける仕組みは、すでに職があり、事業を営み、よりよい生活やライフスタイルを追求する人とは異なったものが適切です。失業者や倒産者が生活を立て直し、再出発する場合、(生活保護は別として)収入を得る手段がなくてはなりません。

それを探す間の生活費の融通ならば、短期間の低利のものを提供すればよいのでしょうが、長引くデフレ、そして三・一一大震災の影響で、仕事はなかなか新たに見つかりそうにもありません。となると、返せないかもしれないローンを貸す前に、どうやったら借りた人が返すあてを得ることができるか考えなければなりません。つまり、雇用と融資は表裏一体だということです。誤解してもらいたくないことは、「貸し手あるいは、その仲介者が職を斡旋するのがよい」といっている訳ではないことです。それは、借り手を最悪の場合、奴隷的な労働に導く怖れがあります。昔の口入屋(江戸時代の職業斡旋業者)はカネ貸しも兼ねていたといいます。就職口を紹介し、それが見つからない間にカネを貸し、職が見つかったら元利を返済させる、といったビジネスモデルは現代に相応しいものとは思えません。

たとえば、マイクロファイナンスを行う機関(MFI)が、借り手に職を与えるために自分のところで雇ったらどうなるでしょう。MFIが貸す人の数の少ないうちは、借り手もMFIの一社員として、せっせと貸出や回収に励めばよいでしょうから、うまく回るように思われます。しかし、借り手の数が増えてくると、誰も彼もを雇い入れることは難しくなります。もともと金融業はそれほど人数を必要としない業種なのです。ならば借り手をどこに就職させるか。これがMFIの最大のテーマとなるともう本末転倒です。しかし、そうしたことにも思いが及ばないと単に「返せないことがわかっている人に貸し続ける」ことになってしまいます。